石橋正一郎・江守哲の「世界が見えるコモディティ投資」
メールマガジン > 石橋正一郎・江守哲の「世界が見えるコモディティ投資」 > 第55回 米国のシリアへの軍事介入と市場の行方(江守)
第55回 米国のシリアへの軍事介入と市場の行方(江守)
2013年09月09日
世界情勢が混沌としています。混迷が続くシリアで、アサド政権が一般市民に対して化学兵器を使用した疑いが強まったことから、米国を中心に軍事介入が検討され始めています。中東情勢の不透明感が一気に高まり、市場では株価が下落し、原油価格が上昇するなど、典型的な地政学的リスクへの反応も見られました。今回のシリア情勢を背景とした株価急落・原油高騰の第一幕はすでに終わり、ここ数日間は落ち着きを見せていますが、予断を許さない状況です。オバマ米政権は軍事介入を前提に米議会や同盟国などへの根回しを始めています。またケリー米国務長官も「アサド政権による化学兵器使用の証拠をつかんだ」と言明する一方、上院外交委員会では軍事攻撃が承認されるなど、アサド政権への圧力が強まりつつあります。
振り返れば、2003年3月に米国はイラクを攻撃しました。その際、米国はイラクが大量破壊兵器を保持しており、危険な状況にあることをその理由に挙げ、軍事攻撃を正当化しようと試みました。しかし、数年後にその大量破壊兵器が存在しなかったことが明るみになり、当時のブッシュ政権は強く批判されました。結果的に、攻撃はイラクの石油確保だったことが露呈したわけです。しかし、多数の死者が出るなど、米国の判断が誤りであっただけでなく、その後の復興にも想像以上の時間が掛かっています。石油の確保もままならないまま、結局はあの戦争の意義がどこにあったのかは、いまだにうやむやになっています。もちろん、米国自身がこれらの事実を公に認めるわけにはいきません。そのうえで、今回も批判を承知でシリア攻撃を実行しようとしているわけです。
しかし、前回のこともあり、オバマ政権はかなり慎重に事を進めているといえます。イラクの件を考えれば、より明確な化学兵器使用の証拠と攻撃を正当化できるだけの理由が必要と考えるのも無理はありません。オバマ米大統領が、前回のイラク攻撃の際の批判を避けるべく、今回は米国民の代表である米議会にその承認を得ることを優先させたことは評価できます。一方、軍事介入に強い意気込みを見せていた英国のキャメロン首相は議会に反対され、介入参加を断念しました。またドイツはすでに軍事介入への不参加を表明し、強硬な姿勢を見せていたフランスも、米国議会の承認の動向を見極めるとし、大幅にトーンダウンしています。オバマ米大統領は、議会の承認がなくとも、独断で軍事攻撃を決定できる強力な権限を保持しています。しかし、ノーベル平和賞を受賞してしまったがゆえに、今回のようなコンセンサスの形成を選択せざるを得なかったといえます。
この状況を利用しようとしているのが、米国の軍事介入を明確に批判しているロシアのプーチン大統領です。今回の件をきっかけに、米露の確執が再び強まれば、世界の枠組みに再び大きな変化がみられるかもしれません。また攻撃に反対しているのは中国も同じです。すでに大国といえるだけの経済力を持つだけに、国際社会における発言力は年々強くなっています。さらに国連の潘基文事務総長も、安全保障理事会で承認されない限り、米国の軍事攻撃は正当化されないと言明しています。米国の軍事攻撃にはかなり高いハードルがあることだけは間違いありません。
それでも、最終的には米国はシリアへの軍事介入を行うでしょう。その過程で原油相場高騰の第二幕が開くことになると思います。ただし、今回の米国の軍事介入では、最大90日間、地上部隊の投入なしという制約付きです。現時点でイラク戦争のような長期化を想定する必要もなさそうですから、WTI原油で115ドル程度がめどになりそうです。それよりも懸念されるのが、リビアなど中東・アフリカ地域からの原油輸出量の減少です。すでに世界の石油消費量の3.5%程度が消失しているとされています。このような状況を受けて、サウジアラビアは9月の産油量を増やすとしていますが、懸念は残ります。先進国を中心に在庫が減少するようだと、戦略石油備蓄の放出などが検討される中で原油価格は一段高になるかもしれません。
当面は不透明感が強まる中、株式もコモディティもボラティリティが高くなりそうですが、過去のデータを分析すると、9月から10月は株式を買うのに最適な時期でもあります。米国の軍事介入をきっかけとした急落は、格好の押し目買いの機会になりそうです。一方で9月の月間上昇率が高い金は、そのタイミングで一旦手仕舞うのがよいかもしれません。もっとも、金については今後も上昇するとみていますので、10月の安いところで買い直すことが、手仕舞い売りの前提となりそうです。
江守 哲
アストマックス投信投資顧問株式会社
コモディティ運用部・シニアファンドマネージャー
商社、外資系企業等を経て、現在まで20年超のコモディティ市場経験。
< 前の回
石橋正一郎・江守哲の「世界が見えるコモディティ投資」
PAGE TOP