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石橋正一郎・江守哲の「世界が見えるコモディティ投資」

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第53回 市場コンセンサスと実態のかい離(江守)

2013年08月12日

「金価格は1,000ドル割れまで下落する」。そんな見方が市場に広がっているそうです。金市場に関する様々な報道をみると、将来の金価格の下落は既定路線かのような記事が目立ちます。確かに、金市場を取り巻く環境は一変しました。現在の金市場の動きを支配しているのは、金融資産としての金の価値です。欧州債務危機を背景に安全資産として金を購入してきた投資家は、株価の反転をきっかけに一転して金を売却し、値上がり期待が強い株式に投資資金を一気にシフトさせました。これが日米を中心とした株価を短期間で押し上げる一方、金価格の急落につながったことは明らかでしょう。つまり、今回の金価格の下落はあくまで投資マネーフローの逆流が引き起こしたものであり、金が持つ特有の価値や将来における金の潜在的な価値は半ば無視されたともいえます。

しかし、直近で起こりそうなことを想定してみると、金上場投資信託(ETF)の解約が続く可能性があり、これが金価格の上値を抑えそうです。またインドの金輸入規制の動きも、同国の金需要の減退につながるリスクが指摘されています。しかし、インドや中国などの個人がこれまでに購入した金宝飾品や金地金などの現物が売りに出される可能性は低いと考えられますし、中国勢の買いは今も堅調のようですので、この点には安心感があります。一方、先物市場で積み上がる投機筋の売りポジションの買戻し圧力が市場で話題になっています。先物市場での金の売りポジションは10万枚超と、史上最高水準にあります。買戻しは一時的にでも金相場の下支え要因になりそうです。

いうまでもなく、金は金融商品ではありません。金は現物である以上、生産にはコストが掛かります。これがペーパー資産といわれる金融商品との大きな違いです。市場では、金の生産コストは上昇傾向にあり、一部の金鉱山ではすでに1トロイオンス=1,200ドルに達しているところもあるといいます。ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)は、生産コストの上昇により、今年の金鉱山生産量が減少する可能性を指摘しています。そのため、下値は限定的とみるのが賢明でしょう。今後の懸念材料を挙げるとすれば、上記のETFの解約に加え、資源国・新興国通貨の下落が挙げられるでしょう。米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和策の早期縮小観測の高まりがドル高につながり、結果として資源国・新興国通貨の下落を引き起こしています。これらの通貨の下落が止まるかが、低迷する金価格の反発には不可欠な材料といえそうです。

このように考えると、現在の金価格の水準は外部要因によって形成されていることが理解できます。つまり、金の本質的な価値とは違う部分で金相場が変動しているともいえます。しかし、生産コスト近辺にまで金価格が下落しているとすれば、コモディティ市場のセオリーでいえばその水準はまさに「売ってはいけない水準」となります。そうであれば、多くの市場関係者が「新興国売り=コモディティ価格の下落」としている見通しはきわめて危険、ということになります。これは何も金だけに限りません。多くのコモディティ銘柄がすでに生産コスト近辺にまで下落している、というのがコモディティ市場のプロの見方です。現在はプロと投資家の見方に大きなかい離がある状況といえます。最終的にはどちらが正しいか、はっきりすると思いますが、コモディティ市場が「現物主義」である以上、現在のコモディティ価格をコスト面から割安と判断しているプロの見方が正しいような気がします。今年のコモディティ・ヘッジファンドの設定が、3年ぶりの高水準になったと報じられています。プロは「いまが参入のチャンス」とみていることが、ここからも見て取れます。

様々な立場の市場参加者が、それぞれの立場や時間軸で見通しを立てるため、見方が異なるのは当然です。現在は多くの投資家がコモディティに対して弱気です。そのため、コモディティをポートフォリオから外す動きが進んでいます。しかし、過去の経験則から、このような動きが行き過ぎると相場は反転すると考えられます。ちなみに、過去の金価格の値動きパターンからみると、年末までに最低でも1,600ドル、最大で1,900ドルまで上昇する可能性がある、というのが私個人の見方ですが、これもまた市場コンセンサスとは逆の見方ですね。久しぶりにコモディティ市場への関心が高まらざるを得ない状況になった、というのが私の考えです。

江守 哲
アストマックス投信投資顧問株式会社 
コモディティ運用部・シニアファンドマネージャー
商社、外資系企業等を経て、現在まで20年超のコモディティ市場経験。

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