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白木信一郎の「投資運用苦楽」

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第229回 投資に関わる契約書について

2015年05月22日

ヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンドへの投資に携わってから、20年ほどが経ちました。その間に、様々な国内外ファンドへの投資や、ファンド自体の設立、あるいは複数の運用会社の設立等の業務も経験してきました。一口にファンドと言っても、公募投信、私募投信、匿名組合、事業組合、海外のユニットトラスト、SPC、リミテッドパートナーシップ等、様々な形態への投資、あるいは設立がありました。国籍も、日本、ケイマン、バミューダ、ブリティッシュ・ヴァージン諸島、米国デラウェア州、ジャージー諸島、マン島等の様々な所在地のファンドへ投資、あるいは組成を行いました。そして、運用会社自体の設立も、国内外での合弁会社を含めていくつか行いましたが、これらの投資、設立に欠かせない存在が契約書です。

関係者や状況にもよりますが、この契約書に関わる実務は、途方もない時間とコストのかかる作業を伴います。もっともシンプルなケースであれば、投資対象のファンドの契約書を読み込み、損害賠償条項等の気になる条項に問題がなければ、購入申込み契約書にサインをして提出するということで済みます。もっとも最近は、投資を行うだけであっても、全世界的に本人確認に関わる証明書などの提出や必要書類が増加傾向にあるので、実務量も侮れません。これが、相対契約を必要とする組合形式のファンドへの投資である場合には、必要書類の分量も増えることになります。

ファンドの設立に関わる契約書も膨大です。先日、ケイマンに新しいファンドを設立しましたが、約50ページの契約書を含む、12種類の契約書を作成し、各関係者の署名を当局へ申請を行い、当局からのスタンプを受領する必要があります。契約書はある程度定型のフォームがありますが、自分たちで記載をする必要のある部分も多く、基本的な関連各国の準拠法に関する知識はもちろん、法律特有の言い回しに日本語、英語で慣れておく必要があります。しかし、何と言ってももっとも時間がかかるのは、複数当事者が協力して行う合弁会社の設立などの契約書作成です。すべての利害が必ずしも一致しない当事者同士が一緒になって会社を作るため、株主間契約書を作成するのが一般的ですが、交渉を経てお互いの主張を限られた契約文に盛り込むため、大変な労力がかかります。

 これらの契約実務に欠かせないのが弁護士事務所になります。シンプルな契約書のひな形の提供から、合弁会社設立の際の当事者の利益を守るための助言、交渉等の経験と交渉力を必要とする案件契約まで、幅広い分野で複数の弁護士が関わってきます。そして、契約に関する業務負担は年々増しています。複数の文化的な違いや、考え方の違いが表面化しやすい国際間の取引が増えていることも一因ですし、投資家保護等の各国の金融制度が細分化し複雑化していることも原因だと思います。今回、米国の運用会社との契約書実務に時間を費やしましたが、契約文化の本場ともいえる米国の弁護士利用度合いは驚くほどです。更に、そこにかける費用も桁違いになります。私たちが投資のリターンを上げ、投資家の皆様に出来るだけ多くの資金を還元することを目的にファンドを設立する際に、間接コストとはいえ、契約に関わる時間と費用を無駄に使わないことも重要なノウハウといえます。

先日参加した香港での国際会議は、PEファンドとヘッジファンドに分かれて二日間開催されました。参加者の顔ぶれはそれぞれ大きく違いましたが、唯一弁護士事務所と会計事務所は双方のイベントに参加し、存在感も大きいものでした。契約業務は、私たち運用会社、投資ファンドの知られざる、しかし大変重要なスキルであり、これを常に磨いておく必要があると考えています。



白木信一郎:
アストマックス投信投資顧問株式会社 取締役CIO
ロンドン・ビジネススクール卒
1990年代はじめから債券投資、運用業務を経てヘッジファンド及びプライベートエクイティファンド等のオルタナティブ資産への投資を担当。ヘッジファンドの投資戦略に詳しく、セミナー、コンファレンス等において講師もつとめる。
AIMA(オルタナティブ・インベストメント・マネジメント・アソシエーション)日本の代表理事兼会長。
著書に「完全版 投資ファンドのすべて (2014)」 (金融財政事情研究会)
「投資ファンドのすべて (2006)」(金融財政事情研究会)
http://store.kinzai.jp/book/12407.html
http://store.kinzai.jp/book/10985.html

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